ども。さっしーです。
今シーズンもメインレースが終わりました。
これで6回目か・・・我ながら物好きな。

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早朝(というかまだ夜)4時。
選手たちが集まり、各々準備を始める。
装備の確認、中間エイドへ送る荷物のチェック。
仲間内で談笑しているグループも多いが、フルマラソンのそれとはずいぶん雰囲気が違う。
ここにいる選手たちはみな、フルマラソンは完走できて当たり前。
大会に浮かれているというよりは、これからの長くて辛い一日に覚悟を決めているように見える。
100kmは、自己ベストを狙うベテランにも、完走を狙う初心者にも、同じように厳しい道程なのだ。

僕もこれをメインレースとしているからには、目標がある。
1.宮古勢1位
2.サブ9(タイム9時間以内)

過去2年ほど、過大な目標を立てて挫折してきたが、今年は仕上がりが違う。
練習の量も質も、僕のランナー人生で一番だ。
今年こそは、過去2年の停滞を吹き飛ばす躍進を・・・
そんなことばかり考えていて、アドレナリンがたぎりすぎたのか、前夜は1時間しか眠れなかった。
まぁ毎年のことだ、一日くらい寝なくても、100kmは走れる。

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今年もスタートゲートの近くで、元気なMCが聞こえる。
20年以上この大会を完走している大先輩、FMみやこ選手。
過去二回、この大会で彼に挑んで痛い思いをした。
宮古勢一位を達成するための一番の強敵だ。
今年こそ・・・

もう一人の強敵が、これまで2勝2敗のけんけん堂選手。
走歴もウルトラ歴も自分に近い。
彼にもこの2年で2連敗。
まさに臥薪嘗胆でこの日を迎えたのだ。
絶対にぶっちぎる!

今回の設定ペースは、前半が5分15秒/km、後半が5分20秒/km。
このペースなら、彼らは絶対ついてこられないはず。

午前5時、号砲とともにスタート。

約600人の選手の内、サブ9で完走できるのは10人くらい、20人を超えることは絶対にない、という見込み。
ならばそれなりに前に出たほうが走りやすかろう・・・と思ったのだが。
設定よりも少し早いペースでスタートしたのに、前方には50人位はいるようだ。
どうなってんだ??みんな自爆か??
多くのランナーはベテランの風格だが、中にはフォームが乱れて、最初の何キロでゼェハァいいながら走っている選手もいる。
ベテランと自爆者が混在してるのか?

暗闇の来間大橋を抜け、伊良部大橋の復路で空が白み始めた。
体調は悪くない。
設定ペースより速いが、飛ばしすぎだろうか・・・・
前回など、このあたりから疲労感を感じながら走った結果、中間地点で重度の筋肉痛、後半に入る頃にFMみやこ先輩にもけんけん堂にも抜かれ、その後大差をつけられた。
だが、今年は大丈夫!な気がする!

30kmを過ぎたころだろうか、左足の外側、小指からかかとにかけてのラインに違和感。
シューズの中で、変にスレている感触だ。
これは・・・今は問題ないが、走り続けるうちに絶対に水ぶくれになる。
同時に、左足ふくらはぎにチクチクした違和感。
筋肉痛、最悪の場合肉離れの前兆。
早すぎる。こんなとこで爆弾かかえてしまっては・・・
フルマラソンなら押し切れるが、100kmはそんなに甘くないぞ・・・
今更遅いが、目標タイムを意識しすぎて、走り方が固くなっていた気がする。
練習では決して痛めることのない箇所だ。

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すでに周囲は、抜きつ抜かれつを繰り返し、見覚えのある選手ばかりになってきた。
「もしかしてガッツさんですか?」
近くをずっと走っていた選手が声をかけてきた。
ウェアに大きく、MIGHTYと書いてある。
ガッツさんは、最近この大会に出ていないが、宮古長距離界の絶対王者として君臨していた選手。
「いいえ??違いますよ、ガッツさんを知ってるんですか?」
「いやー、僕の先輩から、宮古には裸足のスゴイ選手がいるってきいたもんですから」
あー、僕がビブラムだからそう思ったのか。
でもガッツさんは、ビブラムじゃなくてガチの裸足なんだけどねw
そんな会話に混ざってきたオレンジのカーフを履いた選手。
3人でしばらく並走した。
話を聞くと、二人ともかなりの実力者。
5分10秒/kmくらいのペースで走りながら、お散歩しているみたいにしゃべってるし。
やっぱり、今いるポジションは過去のレースでいた場所とは違うみたいだ。
欲張らず、ここを維持するように努力しよう。
聞けば、マイティはこの日16時の飛行機で帰るらしい。
9時間でレースを完走したとして14時。
もし10時間かかったら、ほぼアウトだ。
なんつー博打を・・・
やはりこの業界は変態ばかりか・・・

48.5kmの中間エイド。
先に送っておいた荷物が届いており、体の温まる炊き出しなんかもある。
だが、ゆっくりはしていられない。
時計を見れば、期待したほどは貯金が溜まっていない。
身体の方は、しっかり疲労が溜まっている。
どうしても気になっていた左足の靴擦れを確認してみたところ、足裏側面に3cm以上ある見事な水ぶくれができていた。
なっちまったものは仕方ない。
ワセリンを塗りたくって、ゴールまで仲良く走るしかない。
耐えられる程度の痛みであることを祈るばかり。
水分を補給してオレンジをかじって、気づいたらすでに4分ほど経っている。
急いで出発だ。
マイティとオレンジカーフはとっくにいなくなっている。

そして、60kmを過ぎるころ・・・
限界だ。もう無理。
ペースを維持できない。
前半では、坂やエイドでロスしたタイムは、すぐにスピードを上げて取り戻して、1km単位でおおよそ辻褄をあわせていたが、それができない。
エイドに止まったラップは、30秒位遅く、それがその後も回収できない。
貯金がゼロになるまで、時間はかかるまい。
さらにはこの先は10km近く上り基調、コース上の最高度へ向かう途中・・・
決断の時だ。
半年間の必死の修行の成果であるはずのサブ9を諦め、すべてが崩壊するのを防ぐ以外にないだろう。
失速してはいるが、これ以上悪くならなければ、FMみやこ先輩からもけんけん堂からも逃げ切れるはず。
宮古一位だけは死守する!

約75kmの東平安名崎。
このあたりはまさに地元、ホームグラウンドだ。
今年はYOMEが本大会22kmの部に出場するのだが、そのスタート地点でもある。
スタート時間は13時。
「俺の設定だと、12時前にはとっくに通過してるはずだから、会えるかどうかは微妙だねー」
とか言っていたが、すでに12時を回っている。
過去二年の敗北が頭をよぎる。

この東平安名崎は2.5kmほどの一本道で、岬の先端でコースは折り返す。
後続選手たちとの正確な距離を知る、最後のチャンスだ。
折り返してから、対向車線の選手たちを観察する。
「まだ来るな・・・まだ近すぎる・・・もう少し・・・」
だが、けんけん堂は思った以上に近かった。
約2km。
その数百m後方にFMみやこ先輩。
くっ!!近い!
射程圏内じゃないか!!
残りは約20km。
20kmで2kmを詰めるためには、1kmあたり30秒くらい速く走らねばならない。
走力が近い選手ならば、ほぼありえない。
今のペースで走り続けるならまず大丈夫。
だが、エイドで長居したり、坂を歩いたりしていれば、簡単にひっくり返る・・・
それに、万が一追いつかれたとしたら、それでジエンド。
この差を詰められるということは、その後は延々と離されていくという意味だから。

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コースは宮古島南岸の、鬼のアップダウンロードに入る。
ラスト18kmは、終わることのない坂道。
最後の最後にここを通るところが、このレースの難易度を上げていると思う。
風の弱い好天に恵まれ・・・と思っていたが、後半は冬としては猛暑と言ってもいい温度になった。
いつも自分で「ウルトラの醍醐味は80kmから!」とか言っているが、まったくその通りの状況だ。
僕はといえば、胸から下のあらゆる関節、筋肉から、不快感という煙が吹き出しているようだ。
それが激痛でないのは幸いだが、今すぐここで寝転んでしまいたいという衝動が突き上げてくる。
走り続けていられるのは、うしろからひたひたと追い上げてくる(であろう)ライバルたちのおかげと言えるだろう。
エイドでの補給をのぞけば、一応5分台のラップを維持している。

最近思っていた。
ウルトラマラソンの魅力とは、「己の発掘」なのではなかろうか、と。
ウルトラの後半というのは、ある種の極限状態だ。
練習であってもそれなりの距離はこなすのだが、練習というのは怪我をしてしまえば意味がなくなるので、レッドゾーンまで身体を使うことはできない。
そういう意味で、やはりレースは非日常なのだ。
その極限状態でしか見つからないものがある。
己の弱さ。そして、知りもしなかった、己の偉大さ。
実際、過去のレースにおいて、僕は多くを発見したと思う。
弱さを知ることは辛い、だが、知ったからこそ向き合える。
そして、己の中に眠る偉大さを知ることは、そのまま人生の恵みとなる。

走りながら思う。
———
今回のレースでは、己の弱さを既にいくつも見つけた。
気負いすぎ。
自意識過剰。
見通しの甘さ。
だが・・・何か偉大さを見つけたか?
いや。何も。
そう。たとえ崩れ落ちるにしても、偉大さの一つくらい見つけねば、あんまりだ。
———-
まだなのだ。今回のレースの真骨頂は、ここからゴールまでの10km少々の間にあるはずだ。

左足ふくらはぎはかなり痛い。
だが、肉離れではなさそうだ。
腹筋が痛い。
例の足裏の水ぶくれはずっと前に潰れて、もう感覚がない。
全身が酸欠を訴え呼吸が苦しいが、これは多分、逆に過呼吸だろう。
肩周りが固まって動きが悪い。
・・・が、このへんはもうどれも経験済み、対処法もすでに編み出してある。
走りながら、ひとつひとつ対処して、足が止まらないレベルに押さえ込む。
今はただ、痛みに耐えること、気持ちを折らないこと、それだけだ。

残りはいよいよ5km。
振り向いてみるが、視界には誰もいない。
FMみやこ先輩とけんけん堂には数百m以上の差は維持しているようだ。
ここだ。
よくやった、俺。
ここで最後の切り札を使えば、逃げ切れる。
去年のTOFRで発掘した奥義・・・
前回のトライアスロンでも、ラスト100mで追い上げてきたライバルを振り切った。
5kmなら持つはず。
僕が「覚醒モード」と名付けたコレは、限界状態で脳のリミッターを外して、自滅覚悟のペースアップを可能にする。
「できる」という思い込みと、未知の状況に突入する勇気だ。

そして1kmのペースを30秒近くアップ。
わけがわからん。
自分がなにしてるのか、よくわからん。
ただ、絶対に追いつかれない、はず!
1kmが長くて長くて、永遠のように感じる。
が、今回負ければ、次の1年がどれほど長くなることか!
残りの数kmで、この2年が報われるのだ、このくらいの苦痛がなんだ。

最終コーナーを曲がり、ゴールゲートが見えてきた。
それまで何度もうしろを振り返ったが、ライバルの追い上げはなかった。
ふと思った。
自分はメンタルが弱いと思っていたが、これだけの粘り強さを持っていたのか。
最後の最後に発掘できたな・・・
会場アナウンスが「地元一位の選手が帰ってきました」と言うのが聞こえた。
一瞬泣き出しそうになったが、ゴールするまで油断するな、と自制した。

ゴールタイムは9時間と34分。
色々と問題も次の課題も多いレースだったが、やりきった。
目標に届かなかったとはいえ、90分以上の自己ベスト更新だ。
ヤバイ、無理だ、と思ってから、約40km、粘りきった。
まったくウルトラは奥が深い。
フルの延長線上にない。
更にこの先を見たい、きっと見られる・・・が、しばらくはもう走りたくないw

ちなみに順位は総合22位。
あれだけたくさん前を走ってるはずだった選手たちは一体どこへ??
そんなにたくさん抜いた気はしないが・・・
思い過ごしだったのか、それとも・・・
ベストコンディションと思われたこのレース、100kmの部完走率はなんと57%!
過去有数の低さ。
多分、午後からの暑さが予想の範疇を超えていたのが主因。
そんな中、FMみやこ先輩もけんけん堂もベスト更新、共にサブ10。
特にFMみやこ先輩は僕の7分後まで迫っていた。
もし足が止まってたら、確実に差されてたな・・・ 
僕がこの業界に入って以来、宮古勢でサブ10が3人も出たのは初めて。
ライバルがいてこその競技。
ライバルがいてこそのベスト。
ありがとうございます。
感謝を込めて、来年はブッちぎりますw

さて、ともかくしっかり身体を休めて、次のレースに備えねば。
問題は次のレースが6日後で、それが240km(TOFR2018)ってことなんだけど・・・
まぁ考えても仕方ないさねw

※※
写真提供はけんけん堂の奥様です。
ありがとうございました。
子どもたちと共にたくさん応援してくださったことも合わせてお礼申し上げます。