ども。sassyです。ご無沙汰しております。
おきなわマラソン走ってきたので、とりあえずレポなど。

 沖縄に詳しくない方は誤解されてる方もいるかもしれないが、那覇マラソンとはまた別の大会である。那覇マラソンは3万人規模、おきなわマラソンは1万人規模。おきなわマラソンの方は、沖縄中部(沖縄市周辺)で行われる大会で、コースが嘉手納基地を通るところがウリの一つ。米軍キャンプは法律上、アメリカである。とすれば、これは国境をまたぐマラソン大会だw 経験者の話でも、「基地内が楽しい」とのこと。楽しみである。

 前日入りして、空港からバスで会場へ行き、最終エントリーを済ませてゼッケンや記念品を受け取る。空港から結構遠い。バス代も案外かかるものだ。久しぶりに参加する1万人規模の大会、やはり熱気が違う。スポンサーの大手企業やスポーツショップがブースを構え、前日からすでに盛り上がっている。祭りだ、祭り!! 「無料テーピング!」の看板を見てふと思う。このヤクザな左足、テーピングしたら多少マシにならないだろうか。たとえマシにならなくても、悪くはなるまい。早速、1000円ほどのテープを購入して、その場で巻いてもらう。思ったよりもぐるぐる巻にされて、テープは7割くらいなくなった。「これって、もう一回やれないっすよね?」と聞いてみたら、「うーん、ちょっと足りないでしょうね。でももう一本サービスで付けときますから」と。太っ腹やなー、テーピング無料どころか、頼まなきゃ損なレベルだw ちなみにこの日は、出発前にシャワーを浴びておいて、夜はもう風呂もシャワーもしないつもり。ただでさえ慢性不眠症の僕は、夜のシャワーや風呂は覚醒度を高めるだけでメリットがないのである。だから、前日にテープングしても、特に問題なし。(後日談として、テーピングは気休め程度にはなったと思う)

 テキトーに取った民宿は当たりだった。相部屋のはずだったが、閑散期のせいか、ツインの部屋を一人で使わせてくれた。よくある、古いビルを内装だけ手直しした宿屋だが、客を楽しませるようにインテリアを工夫してあり、居心地がよい。オーナーのセンスだろうな。お金をかける代わりに知恵を絞っているのが伺える。よその宿に泊まると、同業者として刺激になるなぁ。が、居心地のよい寝室でも、やはり僕はレース前日眠れない。うつ伏せになってみたり、ケータイでクラシックをかけてみたり、ヨガのポーズをしてみたり、羊を数えてみたり・・・やっぱり眠れない。思いつく限りの、眠るための努力と、努力を忘れるための努力を試してみたがやはり眠れない。最終的に、自分の自律神経を呪い、悪態をついているうちに、多少のフテ寝をしたようだ(苦笑)。蛇足だが、不眠に関するアドバイスはご遠慮いただきたい。この苦しみは同じ病気の人間にしかわかるまい。

 さて、前置きが長くなったが、ようやくレース。今回初めて陸連登録をしたおかげで、Aゼッケン。つまり最前ブロックのスタートだ。僕にとってはオーバーペースでスタートするに違いないので、Bブロックに近い位置に陣取る。見渡してみると、僕を含めて青のAゼッケンと、白のAゼッケンがいる。多分、陸連登録者が青、非登録だが申告タイムがかなり速い選手が白、なのだと思う。陸連登録は、年会費1500円程度を払えば走力に関係なく誰でも可能。マラソンでの登録メリットは、上位ブロックからのスタート権と、タイムの「公認」。エリート向けの大会などでは、「公認タイム何分以内」などという参加制限を設けている場合が多いので、ガチでマラソンをやるなら登録しておいて損はない。とにかく、こんなに前の方でスタートするのは初めてなので、少々緊張する。

 号砲とともにスタート。気温は20度弱、曇り空で、やや肌寒い。マラソン日よりだ。Aブロックだけあって、最初から渋滞がない。最初1kmほどをアップに当てて、巡航ペースに。左足の爆弾が一番の気がかりだ。1時間前にロキソニンを飲んだが、走り出してみるとやはり痛い。痛み止めがあまり効かないというのも、コレが変な怪我である証拠だと思う。しかし、気にしすぎるとフォームが乱れるので、一旦忘れる。「左足が痛いって?俺は生まれつきこうさ。この足で10年近く走ってきたぞ。忘れたのか?」というふうに自己暗示をかけるw

 おきなわマラソンはアップダウンが結構キツい、と聞いていたが、とりあえず平坦だ。ペースも4分30秒台で安定している。10km地点あたりから少しペースアップ、30km地点あたりでさらに上げて全力走に、というのが僕のフルでの作戦。勝ちパターンと言ってもいい。僕にとっては意外なのだが、3時間前半を狙うレベルでも、「前半で貯金を作る」という考えの選手が驚くほど多い。その誤った作戦を見直すだけでも、もっと結果が出るだろうに。貯金すべきはタイムではない。体力だ。後半で失速する走り方は、前半のタイム貯金を全部吐き出して、さらに大赤字になる。100kmではまだ研究中だが、フルではたぶん間違いない。最初の10kmは我慢だ。精神的にはkの10kmが一番しんどい。どんどん抜かれることはすぐに慣れるが、「今、必要十分なガマンができているか、終盤上げられるだけの体力を貯金しているか」という思考が悩ましい。当然だが、ビビってセーブしすぎては、後半でそのタイムロスを回収しきれなくなる。Gのゼッケンをつけた、10代と見られる選手がすごいスピードで駆け抜けていく。よくまぁ後方ブロックからここまで、この短時間で・・・。死ぬぞ、オイ。高校のユニフォームを着ていることからしても、マラソンデビューの陸上部とかだろう。陸上部にとって、マラソンペースは遅すぎる。ついつい、自分の体力とスピードに酔いしれてしまうのだろうが・・2時間もすれば、超長距離の洗礼を受けることになるんだろうな。本当の天才でない限りは。

 10kmを過ぎて、ギアを一段上げる。よし、問題ない。このペースで十分巡航可能だろう。心のつっかえが一つ解消。だが、コースはいよいよアップダウンが始まる。高低差30m以上の坂が断続的にやってくる。当然だが、平地と同じペースで坂を登れば、それは平地でのペースアップに等しく、レース戦略がメチャメチャになってしまう。では、坂でペースを落とすのが当然として、目の前にあるこの坂ではどのくらい落とすのが、「平地だったら一定ペース」に相当するのだろうか。それに答えてくれるのが「パワーメーター」だ。原理は僕もよく知らないが、ランニングの「出力」をW(ワット)で評価して、時計に出力してくれる。同じスピードでも、上りだと数字が大きくなるし、下りだと小さくなる。パワーメーターの詳細を語ると、それだけで数千文字になるので、今回は残念ながら自粛するw ともかく、今まではスピードベースで立てていたレース戦略を、今回はパワーベースにしてみたのだ。1kmごとのラップタイムは自動的に時計に表示されるが、それ以外は、直近10秒平均のパワーが表示されている。この数値を、一定の範囲内に収めるように走る。戦略的にペースアップする際には、その範囲を一段階上げる、というわけだ。結果的に、この作戦はなかなか良かった。上り坂、特に前半で体力を温存したいときに、ペースへの不安がとても小さくなる。思った以上に、上りは抑えないといけないらしい。逆に下りでは、想定するパワーゾーンで走るとかなりのスピードになり、着地衝撃がキツい。もっとデータを集めていろいろ検討したい。ああ。至福のデータ検証・・・w

 21kmを過ぎ、残りは半分。少し気分が軽くなる。というのも、今シーズン、まともに走りきれたのがこのくらいの距離だから。フルマラソン、ウルトラマラソンは、もれなく潰れている。勝負事では、勝ちが勝ちを呼ぶという側面がある。勝つために強くなるというのとはちょっと違って、勝ったからこそ、さらに強くなるというか。成功体験が、自分自身と競技に対するポジティブな意識を作り出し、練習へのモチベーションをアップさせ、大きな負荷にも耐えられるようになる。その結果、さらに勝利を収め、好循環が生まれて勝ちまくる。今回、走りながら、その逆もまたあることがよくわかった。自分がどれほど競技に臆病になっていたか。好循環があるなら、悪循環もあるのだ。負けは負けを呼ぶ。うむ。理解した。このレースで最も重要なことは、ブッチギリのタイムを叩き出すことではない。自己ベストをちょっとだけ更新して、「良いレースができた」と振り返ることだ。きっとそれが悪循環を断ち切る。ブッチギリは、好循環の波に乗ったときだ。今するべきは、計画通りにパワーゾーンを守り、終盤で順位を上げて、「ナイスレース」に持ち込むこと。

 30km手前で、いよいよコースは嘉手納基地へ。レースと自分のことで精神的にいっぱいいっぱいだったのところに、ワクワク感が。基地内は、なるほど、アメリカだ!日本人ボランティアもいるが、ほとんどは米軍関係者とその家族のようだ。応援の熱はかなり高い。前から興味があったのが、「マラソンの応援で、日本と外国にはどんな違いがあるのか」ということ。体験してみて、誤解を恐れずに率直に言うと、アメリカ人の応援には、奇声、嬌声が多いということ。KYYYAAAHHHHH!!!! GOGOGOGOGO!!! WHOAAAAHHHHOOO!!! YAAAHHHOOOOO!!! みたいなw トーンも1オクターブ高い気がする。実に面白い。僕の勝手な解釈だが、日本人はやや頭でっかちで人目を気にするため、無意味なことを叫ぶのが苦手、アメリカ人は、ノリと勢いで感情を爆発させるのが得意、ということかもしれない。なんにせよ、あの異国情緒は実に楽しい。白人のちっちゃな女の子たちが、沖縄民族衣装を着て応援しているのには、思わず顔がほころぶ。いかつい黒人の若者たちが、「USA!!USA!!(ダパンプ)」を連呼していたのは吹いた。国籍だ民族だ歴史だ、と、いがみあうのは実にくだらないな。人対人であれば、初対面で赤の他人で軍人であっても、こんなに気持ちのいい感情を持てるのに。いい感じに気持ちがリラックスしたところで、いよいよ、次のギアアップだ。

 30kmからはもう時計を気にしない。時計は、主にペースを抑えるためのツールだから、ここからはあまり必要ない。経験上、「これならギリギリ持つ」というペースは10km程度持つものだ。足の力を抜いて、膝から下は羽のように軽く、勝手に動いているイメージをする。重心を、ほんの気持ち前に出して、安定する場所を探す。自己暗示の仕上げは、映画マトリックスのセリフ、”Dont think you are. Know you are.”(映画での訳:速く動こうと思うな、速いと知れ)。
抜きつ抜かれつして顔を覚えた選手たちが、一人ずつ後方へ消えていく。僕の記憶では、ここから先、誰一人にも抜かれなかった。上り坂も攻める。下りはもっと攻める。左足の踵がパンクしそうだが、大丈夫、10km程度は耐えるはずだ。足は痛いし、当然呼吸も苦しい。意識にはうっすらと霧がかかったようになってくる。でも、気持ちは晴れやかだ。このレースは成功だ。ここから潰れることは多分もうない。あとはただただ、体力と気力を振り絞ればよい。恐れるものはない。肉体的なしんどさなど、失敗レースへの恐怖に比べればたいしたことではないらしい。

 前半でぶっ飛ばしていいったGゼッケンの若者がズルズルと後方に落ちていく。快調に飛ばしていたかと思えば、突然立ち止まって、ストレッチを始める選手がいる。中盤からペースメーカーにしていた、ショートカットの女性選手も後方に消えた。(オトコどもは、美人ランナーと思われる選手をペースメーカーにしたがるものだ。後ろ姿しか見えないわけだが)。この、3時間台前半の速度域で、自分が一番速く走っているという満足感。一人抜いては、よし次はアイツだ、と狙いを定めて距離を詰めていく感覚。アドレナリンが全身を駆け巡り、苦痛を中和していく。最も苦しく、最も甘美なこの瞬間・・・そうだった、これを追体験したくて、レースに出るのだ。だからさらに上を目指すのだ。早く終わってほしいが、ずっと続いてほしい。いよいよラストの1km、最後の仕上だ。ラストスパート。ここでスパートをかけても表彰台に届くわけもないし、タイムだって10秒くらいしか変わらない。だが、ここがクライマックスなのだ。絶頂なのだ。ラスト1kmは死ぬ気で走る。この1kmにおいては、成功も失敗もない。ただ、美学と自己満足と・・・あるいは狂気のために。競技場に入ってからの300mはまるでスローモーションだった。いったいこのトラックはどこまで続くのだろうか。僕と等速で、ゴールが遠ざかっているのではないだろうか。いやむしろ僕が止まっているのか。いやいや、トラックに入ってからもさらに一人抜いたのだから、進んでいるだろう・・・。そんな至福のひとときも終わり、ついにフィニッシュ。あー、やりきったぞ。

 タイムは3時間13分。約1万人中、143位。意識していた、3時間ヒトケタには届かなかったが、坂がなければ届いていた計算だからヨシとしよう。自己ベストも更新できた。レースの快感も、感触として思い出した。今シーズンはいよいよ大詰め。次の3週間で、フルマラソンを二本、翌月にトライアスロンが控えている。今シーズン前半の負けを挽回するぞ! 
・・・あー、でもテンション上げすぎてまた怪我するのはイヤだから、確定申告のことでも思い出して水を指しておくことにしよw