宮古最大のスポーツイベント、トライアスロン大会。
このレースの前に書こうかと思っていたネタがいくつかあったのだが、どれも「レース前でナーバスになってるから書きたいと思っただけじゃね??」と感じて自粛した。
寝付きも悪くなるし、レースに遅刻する夢を見る。
毎回毎回・・・メンタル弱すぎ??
いやいや、これはもう生理作用だろう。
そういう体質なんだ。
そんな自分も許してやろうじゃないか。

午前3時:起床

スタートは7時だが、ロングのトライアスロンはとにかく荷物が多い。
つまり、忘れ物リスクも高い。
スタート時刻に体調をベストに持って行くためには、朝食の時間なども意識しなければならない。
3時起きはむしろ遅い方かも。
冷蔵庫から個包装の切り餅を4つ取り出し、熱湯に放り込む。
包装を切っていないので持ち運びができ、一度柔らかくなると数時間は食べられる硬さのままなので、レース直前まで少しずつ食べられる。
4時ごろにYOMEを起こし、出発の準備。

午前5時:出発

YOMEに会場まで送ってもらう。
会場の前浜ビーチには、島中から1700人(家族やサポーターを含めるとその数倍)が集まりつつあるはずなのだが、田舎の我が家から会場に向かう車は皆無。
暗闇のドライブが緊張感を高め、全身に血がたぎるのを感じる。

やや遅めに入った会場では、すでにたくさんの選手たちが準備を進めている。
真剣に黙々とバイクを調整している選手、仲間と談笑しながら情報交換している選手、予期せぬトラブルや忘れ物に慌てている選手・・・
この空気感は独特。
いよいよ長い一日が始まる。

午前6時半ごろ:ビーチへ

腕にマジックでレースナンバーを書いてもらい、バイクのセッティング、荷物の割り振りを終えたら、いよいよビーチへ。
去年は海が荒れてスイム中止、デュアスロンの大会となったが、今年は無事にスイムも開催される模様。
スイムが中止にならないのは嬉しいのだが、3kmのスイムは未経験。
まして1700人の選手が一斉に泳ぐので、バトル(選手同士の接触がある混戦)は必至。
緊張が増してきたのか・・・なぜ歩きながらウェットスーツを着たのだろう。
(僕のはツーピースなので、上だけなら歩きながらでも着られる)
ピチピチのウェットをやっと装着したとき、耳栓を片方落としたことに気づく。
真っ白なビーチに、半透明の耳栓。
探せるはずがない。
早速きたか、最初のトラブル。
まぁいい、僕は右側でしか息継ぎしないから、右耳さえ塞いでおけば浸水はほぼ防げる。

スタートポジションのあたりまでくると、そりゃあもうぎゅうぎゅうの人だかり。
ボランティアさんが持っている看板に「エリート」とか「1時間以内完泳」とか書いてある。
なるほど、遅い選手は後方からスタートしてね、ってことか。
僕は1時間20分くらいかかると思うが、計測した経験がない。
友人のTKY選手としゃべりながら成り行きでたどり着いた場所が「1時間以内」より少し後ろだったので、その辺でいいや、ということに。

午前7時:レーススタート!!!

一斉に選手たちが駆け足で海に突っ込んでいく。
僕のが水に入った時にはすでに大勢が泳ぎ始めていた。
おお。
まるでイワシの群れ!
この中で泳ぐのか・・・
僕のスタートした、群れの中央あたり、インコース側ロープ寄り。
ここはもしかしたら最悪の激戦区?
もう遅い。
自分もイワシの一匹になって、あとは成り行きに任せるしかあるまい!

水に入って少し泳ぐと、すぐに足の付かない深さ。
今までの練習で身につけた動きを淡々と繰り返すのだが、手足が周りの選手に引っかかる。
左側からぶつかられて、右側のロープに押しつけられる。
ロープには一定の距離で、巨大なブイがついており、これに頭をぶつけるとかなり危険。
脇腹を蹴られたり、顔面パンチを食らったり、監視員のカヌーに頭をぶつけたりしながら、ようやくペースを掴めた。
周りの選手との距離感と、真っ直ぐ泳ぐことに集中するべし。
殴られたり蹴られたりするのは、多分お互い様。
スイムコースは三角形を描くように作られており、一周で3km。
3つの直線と2つの曲がり角がある。
1つめの曲がり角は思ったよりも早くやってきた。
泳ぎ方も掴めた。
ちゃんと水をキャッチできている感じ。
後ろから足を掴まれたら、心を鬼にしてバタ足。
そうしないとこっちが沈む。
接触はするが、パンチは食らわなくなってきた。
2つめの曲がり角を曲がったところで時計を見ると、まだ40分弱しか経っていない。
ん~?もしかして俺って速いのか??

息継ぎのときにふと後方に目をやると、水平線の上に奇妙なグラデーションが。
もう一度よく見ると・・・
雨雲だ。
宮古の夏によく見かける、天気予報に反映されない、激しい通り雨。
案の定、スイムフィニッシュを目前に、大粒の雨が叩きつけてきた。
雨の中ビーチに上がり、軽く駆け足しながらウェットを脱ぐ。
タイムは手元の時計で1時間と約6分。
上出来!
筋力もスタミナもメンタルもほぼ無傷でスイムフィニッシュ、しかも予想を大幅に上回るタイムだ。

ビーチを上がると、シャワーが用意されていて、そこでみんな海水を流す。
先は長いので、しっかり流したいところだが、混雑しているし時間がもったいない。
手早くシャワーを浴びて、ウェットやゴーグルなどを用意しておいたバッグに放り込み、裸足でバイクラックへ。
バイク用のシューズや道具は、一式バイクと一緒にセットしておいた。
バイクラックにはまだたくさんのバイクが残っており、悪くない順位でこれたことがわかる。
雨の中のバイクスタートは去年と同じ。
路面抵抗が下がり、スピードが上がる上にブレーキがききにくい。

バイク練習はここ2週間ほどしていない。
それに、去年の大会以降、150kmとかを走る練習もしていない。
練習はいつもだいたい100km。
僕の持論では、150kmをダラダラ走るより、100kmを全開で走る方がトレーニングとして有効だからだ。
150kmは時間もかかりすぎる。
100kmトレーニングの感じから2~3割アクセルを緩めてやれば、いい感じで157kmを走りきれるはず。

まずはバイクスタートの東急ホテルから、一路伊良部島へ。
去年の伊良部大橋は恐怖の横風で、車体ごと持っていかれそうだったが、今年はそれに比べれば無風みたいなもの。
途中、ライバルと目しているカッピ選手、SGR選手に出会う。
まだまだコースが混み合っているので、思い通りに進めないようだ。
実際、スピード感からして、今いるポジションは僕たちには少し後ろすぎるだろう。
無理な追い越しで事故でも起こしたら元も子もないので、慎重に少しずつ抜いて、ポジションを上げていく。
が、伊良部島に入ってしばらくのあたりで、タイヤから激しい異音!!
ヤバイ!何か巻き込んだか!こんな序盤でメカニックトラブルなんて!!
追突されないように速度を落とし、歩道に入って停車。
どうやら、車体に貼り付けていた補給用ジェルのガムテープが雨で溶けて、車輪に巻き込んだようだ。
幸いマシンに異常なし。
車体に貼り付けていたジェルは3つ、残りの2つも危なかったので、さっさと飲んでしまうことにした。
このときにサイコン(スピード計みたいなの)の位置が狂って、ケイデンス(ペダル回転数)表示が無効になってしまったが、レースにはそれほど重要でないと判断、微調整に時間を費やすより、無視してレース続行とした。
時間にして1~2分のロス。
だが、カッピ選手、SGR選手を見失うには十分。
2分あれば1km進むからね・・・

伊良部大橋を戻って、次に向かうは池間島。
・・・とりあえず好調。
スピードも出ているし、疲労感も少ない。
去年だったら「絶好調!」と思っていただろう。
「とりあえず」と思ってしまうのは、今シーズンのレースがことごとく後半に潰れているからか。
今年2回の100kmマラソン後半を思い出すと、いやな予感をぬぐいきれない。

池間大橋を渡って池間島を一周、再び橋を通って宮古島に戻る。
池間大橋復路では、後続の選手たちを見ることができる。
池間島が一周10km程度あるので、ここですれ違う選手たちは自分よりかなり後方と言っていい。
早速見つけたのは僕が応援しているKMT選手。
彼は昨年11月に伊良部トライアスロン(51.km)でデビューした選手で、フルマラソンも未経験。
普通に考えたら宮古島トライアスロンに挑戦するのは1年早い。
だが、物凄い勢いで練習を重ね、その結果としてやってくる故障にも腐らず、やれることをやれるだけやってきた。
相談された話やFBでの投稿を見ての感想だが。
ぜひ完走して欲しい。
人間その気になれば何でもできる、は僕のモットーだが、彼が完走してくれれば、またひとつその証明になるだろう。
そして続いて見たのは・・・
宮古の女王、アッツ選手!?
まさか、見間違い???
たしかにアッツ選手はバイクは平凡なタイム(女子としては平凡じゃない)で、ランに入ってから圧倒的な強さで駆け上がっていくタイプ。
にしても遅い?
もしかして俺が速くなった???
まぁいいや、アッツ選手も今回の目標の一人。
去年はバイクで先行したにも関わらず、ラン序盤で抜かれ、終わってみれば30分以上離された。
バイクで離せるだけ離しておきたいというものだ。

コースは南下して、東平安名崎へ。
やや疲れがたまってくる上に、嫌なアップダウンが続くエリアだ。
登りは割と得意だが、調子に乗って踏みすぎてしまうクセがある。
先は長い。
登りでは軽めに踏んでも、少しずつ順位を上げられる。
下りでは思い切って足を休め、体力温存。
去年は東平安名崎で足の痙攣を経験しているので、慎重に。
東平安名崎は完全な折り返しなので、前後約4kmの選手たちとすれ違う。
トップ集団はさすがに遙か彼方だが、宮古勢上位は見られるはず。
最初に見かけたのはシンゴ選手。
去年は宮古勢2位。
おお、意外と近いぞ、4kmくらいか。
カッピ選手は見つからなかったが、SGR選手は200mくらい前を走っているようだ。
よしよし、この差をキープできれば上等。

東平安名崎以降は鬼のアップダウンが続くルートで、最初の東急ホテルへ向かう。
アップダウンはきついが、ここはまさに僕のホーム。
なんというか、坂のリズム感みたいなのが身についていて、ラクにスピーディにいける。
バイクに入ってからかなり順位は上げ、車間も広がってきたが、まだじわじわと上げられそうだ。

さぁ長い長いバイクパート、いよいよ残り30kmくらいとなってきたが、ここからが長い!
登りで息が上がって、戻るのに時間がかかるようになってきた。
これ以上心臓を酷使すると、ランがダメだ。
登りはもうスピードを捨てて、ゆっくりダンシング(立ち漕ぎ)で疲労を軽減する。
痙攣も黄色信号。
小さい痙攣が頻発し、そのたびに姿勢を変えたり速度を落としたりしながら、だましだまし走る。
とにかく、これ以上状態を悪化させず、ランにつなぐ。
あとはなんとかなる!
順位はこれ以上あげなくていい。
ランに入ればまた上げられるはず!

最後の10kmくらいはずっとゼイゼイいいながら、なんとかバイクフィニッシュ!
バイクタイムは自分の時計で5時間18分。
時速に直して平均29.6km。
上出来!
100km練習くらいのペースだ。

バイクラックに行くと、SGR選手とその弟のヒロ選手が。
よし、追いついた!
ランなら僕の方が有利なはず。
バイクをラックにかけ、ヘルメットを外し、ランシュに履き替える。
用意しておいたおしぼりで、ドロドロになった顔とサングラスを拭く。
空は曇っているので、キャップはいらないだろう。
おっと、去年はここでグローブを外し忘れて面倒なことになったんだった。
最後にゼッケンベルトを外し、ラン用に用意したゼッケン付きポーチを装着。
ポーチには補給食として、特製の激ウマ黒糖が入っている。
よっしゃ、ランスタート!!

目標は4時間。
とにかく、1kmあたり5分半を超えないように走る作戦。
序盤で飛ばしすぎたら取り返しがつかないことになる。
最近の失敗レースを再現しないためにも・・・
が、GPSウォッチを見ると、5:00/km
イカン!ブレーキ!!高速で減速せねば!!
5時間以上のバイクの高速走行に目が慣れているので、ランの速度が遅く感じてしまうのだ。
バイクの直後は、こんな遅くていいの?ってくらい落としてちょうどいい。
まぁとりあえず足が動くことは確認できたからよし。

しかし。
ほんの2~3km走ったあたりで、違和感。
セーブして走っているつもりが、心拍が回復しない。
横隔膜と胃のあたりがずっと苦しい。
時計は6分/kmを超えたのに、まだラクにならない。
ほんの少し遅れてランをスタートしたヒロ選手が追いついて、話しかけてきた。
が、こちらは息が苦しくて、返答するのも難儀な状態。
「ゴメン、ちょっと苦しくてペース落とすから、先に行ってて・・・」
というのがやっと。

やばいぞ・・・まさに失敗レースの再現じゃないか。
まだまだ40km近い距離を残してこの状態。
このパターンだと、まずタイムを下方修正して、次にライバルとの勝負(自分で勝手に設定してるだけだけど)を諦め、さらにタイムを下方修正して、最後は完走さえできればなんでもいい!って・・・
このレースはシーズン閉幕戦。
酷い結果を出したら、オフシーズンをずっとそういうテンションで過ごす羽目になるかも知れない。
が、タイムも順位も結果でしかないのだ。
レースでモノを言うのは、積んできたトレーニングと作戦だ。
目標に対して正しい量と質のトレーニングを積めたか。
体調の調整、補給の内容、体力の配分などの作戦が狂っていなかったか。
これらが間違っていたら、98%ダメだ。
いわゆる根性で補正できるのが残りの2%。
まぁこれこそが失敗レースで学んだことなのだが。
だから考える・・・考える・・・

根性を封印して今できることは作戦の微調整か。
ラップタイムが6分/kmを超えたあたりで、もう4時間は諦めるしかない。
うん、そこは潔く諦めよう。
ランで100人200人と抜いてやろうと思っていたが、自分にその実力はない。
だが、順位の落ち幅を最小にすることはできるはず。
まずは遅すぎるくらいまでペースを落として、心臓を復活させよう。
幸い、足(の筋肉)は無事だ。
それが過去の失敗レースとの大きな違いだ。
足を回復するのは難しいが、心臓はまだ易しいはず。

実際に7分弱/kmまで落とすと、息苦しい感じが軽くなってきた。
心臓が楽になれば、足は生きているのだから、ラップタイムも6分50、6分40と自然と上がってくる。
数百メートル先行していたヒロ選手に追いついた。
「おお、前田さん、やっぱり来ましたね-!」
「いやいや、ホントぎりぎりだから・・・最後までもつかなぁ」
実際、”死ぬほど苦しい”が”かなり苦しい”になった程度なんだから。
「僕も苦しくてペース上がらないんで、よければ併走しませんか?
6分半くらいで刻んでいきましょう!」
とはヒロ選手の提案。
うーん、苦しいが、気は紛れるかもしれない。
ついて行けなくなったら先に行ってもらうだけだ。
提案に乗って併走することにした。

反対車線は間もなくゴールしようというエリート選手たちが駆け抜けていく。
どの選手もフォームが美しい。
レベルは違えど、疲労の限界であるのは同じだろうに。
まるで単独のマラソンを走ってるみたいだ。
このままトレーニングを続ければ、いつかはあんな風に走れるようになるのだろうか。
まぁいい、今はこのポンコツの心臓がバーストしないように気にしながら、残りの30kmくらいを走るだけだ。

折り返しまで残り4km。
ここからは僕のホームだ。
沿道の応援から名前を呼ばれる。
近所の中学生たちがボランティアをしている。
友達がハイタッチで励ましてくれる。
精神的に一番キツイこのあたりがホームなんて、なんて恵まれた条件!
コースはここで、急な下り坂になる。
通称ナンコウジの坂。
坂は苦手ではない。
さらに今回初めて投入したランシュ「ON」はカチっとした履き心地なのに、衝撃吸収もしっかりしている。
つまり、下りで多少の無理が利く。
坂を軽快に下ったあたりでヒロ選手、
「すみません、ちょっと辛いんで先にいってください、ゴールで会いましょう!」
「うん、またゴールで!!」
言葉にはならなかったが、感謝していた。
ありがとう。
ここまで回復できたのは君のおかげだ。
僕はここから少しペースを上げて、勝負に出よう。
健闘を祈る!!

保良の折り返しが見えてきた。
踊りの衣装を着た子供たちが見える。
選手の応援に来ている地元の子供会だ。
僕の姿に気づいたらしく、休んでいた踊りを再開してくれた。
YOMEと娘たちも必死で応援している。
青年会の友人たちが作ってくれた横断幕が張ってある。
沿道で座っていたおじぃが、マエダがきたぞ!というと、隣にいたおばぁが、マエダさんがんばれー!と叫ぶ。
よっしゃ、充電完了!!
いけるぞ!

ランコースは完全な往復ルート。
折り返し後は、後続の選手すべてとすれ違う。
ライバルの位置を最終確認する場所だ。
すぐ後ろにいることがわかったのは、さっきまで一緒だったヒロ選手に加え、TKY選手、カモ選手、UNO選手、そしてアッツ選手。
みんな去年の自分より格上で、今年こそは、と思っていたライバルたち。
アッツ選手はバイクであれだけ離したはずなのに、やはりランは圧巻。
すれ違いざまの走りを見て、もう逃げ切れないと確信した。
カモ選手はフルマラソンではサブ3ランナー、TKY選手にも勝ったことがない。
UNO選手はスイムの達人ということ以外未知数だったが、ここまで迫ってるとは。
この心臓で逃げ切れるか・・・

心臓は相変わらず苦しいが、ペースは6分前後を維持できるようになった。
2~3kmごとにあるエイドは走り抜けずに歩きながら補給やスポンジを受け取り、短い歩きの中で回復を図る。
そして、よし、次のエイドまでがんばれ!と自分に言い聞かせて走り出す。
どうやったら残り少ない体力を使って、最短でゴールまで身体を運べるかだ。
よく、「自分に負けるな!」「己の敵は己だ!」とか言うが、僕は信じていない。
己に勝つ???じゃあ負けたのは誰だ。
やっぱり負けたのも己じゃないのか。
自分の内面を切り刻んで戦わせるなんて、まるで内戦だ。
国家に例えれば、国が疲弊しているときに必要なのは団結だろう。
だから僕に言わせれば、
「己の一番の味方が己だ」
身体にも心にも、無茶をさせている。
はっきり言って馬鹿げている。
だからこそ、できる限り身体をいたわり、心を引き裂かない。
自分の中に敵を作らない。

残り7km・・・
ここからゴールの競技場までのコースは再び市街地となる。
全行程の95%くらいが終わった。
アッツ選手にはずいぶん前に抜かれたが、他のライバルたちはまだ来ていないようだ。
後ろから足音を聞く度に、いよいよか!?という気持ちになる。
このあたりで・・・ずっと使わずに暖めておいた切り札、「根性」を使ってもよかろう。
劇的に状況が改善することはないが、下降気味のペースを上昇気味に変え、エイドでのウォークブレイクを短くする。
残り時間から考えて、糖分の補給はこの先不要。
冷えた内臓を温めるために、温かいお茶を2杯ほど飲んでエイドを後にする。
苦しい。苦しい。口から心臓が出てきそうだ。
もう本当に究極に限界!というところでエイドにたどり着き、お茶を飲む。
それを2回ほど繰り返して、最終エイド。
残り約2km。
ついに終わったかもしれない。
根性を使うのが2kmほど早かったか!?
でも今更いじくれるところはない。
あとは魂削ってでも走るのみ!
長くともあと15分!

もうこのあたりは沿道の応援が途切れることがないように続く。
死にそうな選手たちを励ますのだから、応援の人たちも必死で声を張り上げている。
「がんばれ!!!もうゴールは目の前だぞ!!!」
朦朧としながら思う。
うん・・・ほんとあと少しだよな・・・でもあと1km、なんて・・・なんて遠いんだ・・・
歩いている選手もいる。
ここまで201km、11時間に渡って走り続けてきて、最後の1kmで歩いている。
それほどに・・・限界を超えてしまったのだろう。
苦しいのは自分だけじゃあない。
この選手たちと、ここまで競り合えた自分を誇りに思う。
ありがとう、名も知らぬライバルたち。

ついに競技場に着いた。
あとはトラックを300mほど回って、ゴールゲートだ。
家族と、友達の家族が待っていて、一緒にゴールゲートをくぐろうと併走してくれた。
子連れの彼女たちは、最後の力を振り絞る僕より、少しだけ遅かった。
ゴールゲート数メートル手前で立ち止まり、YOMEの手から5ヶ月の三女を受け取り・・・ゲートをくぐった。

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終わったぁ・・・
順位もタイムも確認しなきゃわからないが、確認しなくてもわかることがある。
今回は成功だ。
1年ぶりの、悔いの無いレース。
諦めなくてよかった。

ゲートをくぐるとほぼ同時に身体が崩れ落ちたが、YOMEや友達が至れり尽くせりでフォローしてくれたので、医療班のお世話にはならずに済んだ。
みんな人がいいよ。
好きこのんでこんな身体に悪いことやってる人間に・・・w

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立てるようになるまで横になってから記念撮影。
女子11人。
ハーレムじゃwww

感謝。
必死で応援してくれる家族や友人たち。
一日中僕らの世話をしてくれたボランティアさんたち。
僕のレースを一層盛り上げてくれた宮古のライバルたち。
共に長旅を闘った世界中のアスリートたち。
関わってくれたすべての人たちに感謝。

result

swim 1:04’47
bike 5:28’03
run 4:33’43
total 11:06’33

総合334位/1546人
宮古勢6位/68人

オフシーズンはガッツリ心臓を鍛えようと思います☆
次は秋のフルマラソンだ~~♪♪