今回のレースは、レポートを書かずにおこうかと思っていた。
振り返ってみても、思い出すのは辛いことばかり。
反省と後悔はあっても、評価できる点がほとんどない。
でも結局書くことにしたわけだが。
このNAGOURAマラソン100km、今回が第二回大会で、まだ知名度も低く、規模も小さい。
前回のリザルトを見ると、全体のレベルも低めのようだ。
エントリーしたときには、「もしかしたらかなりいい順位で入れるかも」なんてスケベ心もあったりしたw
僕としては宮古島初挑戦以来のアウェイでの100km。
というか、100kmは宮古でしか走ったことがない。
大会の規約もいろいろ異なる。
・・・携帯電話、懐中電灯、マイカップ、ボトルなど
・・・つまり交通規制なし
などが大きな違いだ。
荷物の存在は、結構大きいと思う。
できるだけコンパクトにまとめるにしても、100kmずっと携帯するのだから、それなりに負担。
さて、キリが無いので前置きはこの辺にして・・・・ヨーイドン!!
午前4時半。
ライトアップされた闘牛場跡地から、ヘッドライトを付けたランナーたちが暗闇の小路を走り出す。
天気は雨。
明け方に最も雨脚が強まり、午前中一杯降るという予報だ。
ほとんどのランナーがカッパ姿だ。
公道に出るまで、公園内の小路を走るのだが、これが暗くて、狭くて、縁石やポールなどの障害物があって、しかもそれが混雑のためよく見えない。
最初から転倒したりしたら先が思いやられる。
みんなじっくり気をつけて走る・・・
公道に出ると、そこは片側二車線の国道58号線。
当然、歩道を走ることになる。
信号も多い。
信号で止まるマラソン大会は初めてかもw
しばらくいくとコンビニがあった。
ちょうどいい。
ルールに則ってポーチにボトルを差してきたのだが、実はスタートする直前に、中身を入れ忘れたことに気づいた。
最初のエイドまでは12kmある。
空のボトルを捨てて、アクエリアスを買った。
レース中にコンビニで買い物をしたのも初めてw
ついでに、カッパを脱いでコンビニのゴミ箱に捨てた。
暑すぎだ。
雨は降っているが、気温は低くないし、カッパナシでも十分温かい。
捨てたことを後悔するかも、とは考えたが、ただでさえ荷物があるのに、濡れたカッパを持って走るのはイヤだ。
それに後半は晴れることになっている。
カッパを脱ぐと、軽快軽快♪
今回のレースでは、完走以上の目標は立てないことにしていた。
ひとつには、前回のワイドー100kmで、目標達成に執着するあまり、体調よりも時計を優先、結果、早々に潰れるという失態だったこと。
もうひとつは、大会5日ほど前に謎の体調不良、病み上がりでのレースとなったこと。
(DNS:棄権も検討したが、2日前になんとか行けると判断)
それでもまぁ、軽快に走れて、潰れずに、11時間くらいでゴールできたらいいな~~くらいの気持ちはあった。
だから、前半とはいえ、軽快に走れるのはとってもうれしい。
さて、コースは左に折れ、橋を渡って、奥武島、屋我地島、古宇利島、と離島をハシゴする。
この、離島からさらに離島へ渡っていくのは宮古にはない。
なんとも不思議な感じだ。
古宇利島への橋では、すでに夜が明けて、天気が悪いながらも素晴らしい景観だった。
周りから感嘆の声が聞こえる。
まぁ宮古の方がキレイだけどね(←地元愛??
古宇利島を一周して、来た道を戻り、再び国道58号の続きを走る。
しばらくいくと、75kmの部の選手が逆走してきた。
どうやらこの先で、75kmのコースは折り返しのようだ。
選手の間隔からして、かなり上位だろう。
ここまでときどきおしゃべりしながら一緒に来たランナーが、「僕らのすぐ後ろを走ってるあの子、女子6位みたいですよ」と教えてくれた。
彼女の応援団の会話を小耳に挟んだのだろうか。
察するに、僕のいる場所もわりと上位とみてよさそうだ。
参加者が400人程度なので、最低でも100位、よければ50位くらいにいるかもしれない。
全身をスキャンしてみても、トラブルも疲労もなさそうだ。
メンタルも問題なし。
もしかしたらこのまま、このポジションで走りきれる??
75kmの部が折り返すと同時に、僕ら100kmの部は右折、文字通り山場となる峠越えへ。
海沿いのゼロメートル地帯から、標高200mの山を越える。
終わりの見えない坂を前に、「あ、これだな!」と思った。
迷わず歩く。
今回、作戦の一環として、積極的ウォーキングを取り入れてみることにしていた。
疲れたから歩く、ではない。
疲れないために歩く。
「10kmに一度か二度、1分程度のウォーキングタイムを作る」という作戦を立てた。
1分間の歩きでロスする時間は約30秒という計算。
走るときがキロ6分、歩くときがキロ12分とすると、ざっくりそんな感じになる。
これを100km続けると、全部で5~10分程度のロス。
これだけの時間的コストで、足の潰れを予防し、後半の失速を防げるとすれば、トータルタイムは大きく伸びるはずだ。
そして、これとは別に、「キツイ登りは基本的に歩く」というのも作戦に入れた。
登りを走るのは、時間的メリットより体力的デメリットが大きいと感じていたからだ。
(もちろん、僕の体力で100kmを走る場合、という意味で)
走ればアホみたいに消耗する登りも、歩けば逆に充電区間となる。
下りと平地で時間は回収できるはず。
峠は思った以上に長かった。
地図だけじゃわからん。やっぱり。
登り全区間を歩くのはむしろストレスがたまると感じて、軽めのラン&ウォークで行くことに。
それにしても立派な森だ。
ガードレールの向こうは崖になっていて、眼下にヘゴの密生林が広がる。
巨大なヤシのようなシルエットに、超巨大なゼンマイのような芽がニョキニョキ。
これぞやんばる、まるでジュラシックパークだ。
実際、ヤンバルクイナもよく目撃される場所らしい。
今度は写真を撮りに来たいなぁ。
一度は上がった雨だったが、いつの間にかまた降り始め、雨脚は強くなっていた。
事前に荷物を預けておけるレストステーションは約48km地点。
だが今回は何も預けていない。
そもそもウェアは一着しか持たずに遠征に来ている。
久々の遠征で準備不足だったのが半分、まぁいいや何とかなるだろと思ってたのが半分。
自分の経験を過信していたと言えなくもない。
なんにせよ、ここには着替えやタオル、予備のカッパを預けておくべきだった。
忘れ物と言えば、ワセリンを忘れたのも痛い。
こんな雨の中でスタートするときは、脇や股にワセリンを塗っておきたい。
股擦れは、真綿で首を絞めるが如くだ。
スタート前にワセリンを塗ったくらいで防げるわけではないが、重症化を何時間か遅らせてくれれば十分だ。
50km通過タイムは5時間34分。
悪くない。
このままいけるとしたら。
このあたりで沖縄本島東側の海岸線に出る。
島を横断したわけだ。
しばらく気持ちの良い海沿いを走る。
そして再び峠だ。
前回の峠より若干低めなのだが、体力を消耗してきたのか、かなりキツイ。
下りで走りながらも、足を削っているように感じる。
ホントにいいのか。この下り、走って大丈夫なのか。いやむしろもう手遅れなのか。
峠は越えたが、作戦が崩れたことを認めざるを得なくなった。
「疲れないために歩く」はずだったのが、いつの間にか「苦しいから歩く」になっている。
これが残り10kmとかなら、「苦しいけど走る」のもアリだろう。
でも、目の前にはフルマラソン1本分の距離が残っている。
がんばっちゃいけない。
ウルトラマラソンは、他のどんな競技より、がんばっちゃいけない競技かもしれない。
この大会、丁寧に1kmごとに距離表示があり、しかも子供たちの手書きコメントが添えられている。
前半ではとても気持ちの良いテンポで現れた距離表示。
「お♪もう1km走った!?」
これを長く感じるようになってきたらヤバイ。
「まだ・・・?あれからまだ1kmも進んでナイ???そんなバカな・・・」
ヤバイなぁ。
まだ苦痛は少ないが・・・ここが地獄の入り口かぁ。
立派なホテルの入り口に「カヌチャリゾート」と書かれていた。
ああ、ここか。
懐かしいなぁ、新婚旅行でここに泊まった。
あの時が初めての沖縄旅行だった。
あの頃、こんな未来は微塵も想像しなかったな。
宮古島で民宿やりながら3人の娘たちを育て、島中走り回って、飽き足らずにこんなところでボロボロになりながら走ってる。
ふ。結構な未来だなw
あいつら今どうしてるかなー。
応援がないのはやっぱり寂しいなぁ。
その先には米軍施設があった。
今日だけで何度目か。
道を挟んで反対側に、テントや小屋が並んでいる。
お祭り・・・ではない。
ここは辺野古。
基地建設反対の座り込み運動をしている人々だ。
プラカードに600と何日目とか書かれている。
そっか-、そんなに・・・
僕は基地問題や政府のやりかたにどうこう言うつもりはない。
そんな知識もないし。
ただ、必死になってる人たちを見ると、がんばれって思う。
ん?いつも必死で走ってるときに、がんばれって言ってもらってるからか???
70kmを過ぎた。
いよいよ地獄の三丁目か。
雨は降ったり止んだりを繰り返していたが、徐々に強まってきているようだ。
背中にいやな悪寒が走る。
ああ、この感じ。
風邪引き始めとかによく感じるやつだ。
病み上がりだからなぁ・・・
序盤でカッパを捨てたことを後悔し始めた。
が、どうすればよかった?
あの時はあれでよかったのだ・・・
コンビニでも見つけて、カッパを買い直すしかあるまい。
多少の小銭は持っている。
エイドで女の子に聞いてみた。
「ええー?コンビニですか!うーん、10kmか・・・最低10kmはあると思いますよ」
くっ!さすが地獄!
コンビニはないが個人商店はいくつもある。
が、日曜は一斉に休むようだ。
さすが地獄・・・
ヘロヘロのところ、応援のおばちゃんがお菓子をくれた。
個人エイドと呼ぶほどの規模ではなく、ポケット一杯分のチョコや飴などを、通過するランナーに渡している程度。
チョコは胃にくるので、ハイチュウを一つもらった。
ああ甘い、これはいい気分転換に・・・ガリッ!!!
ハイチュウの中に異物だとッ!?
慌てて口から出してみたそれは、奇妙な形の銀色の金属。
ああ。俺の歯の詰め物じゃないか・・・
さすが地獄・・・・・・・・・
80km
豪雨と呼んで差し支えない雨。
体の芯が冷え切ってきた。
とにかく寒い。
コンビニ・・・カッパ・・・ホットドリンク・・・あと何km・・・??
思考がまとまらなくなっている。
さっきからずっと同じ考えばかりがループしている。
ラン&ウォークで、平均キロ10分弱。
時計を見ると制限時間まではまだたっぷりある。
大丈夫、大丈夫・・・ここから仮に全部歩いたとしても・・・!?
あまり大丈夫じゃなかった。
仮に全部歩いて、平均キロ12分だとすると、制限時間に引っかかる可能性が出てきた。
終盤、キロ12分をオーバーするとかなりマズい。
DNF(did not finish=リタイア)の3文字が頭をよぎる。
そ・・・それだけはあってはならぬ!!
それだけは!
たとえ最後の完走者となろうとも!
寒さはいよいよ耐えがたいものになってきた。
ときどき、全身の筋肉に力を入れて硬直させ、無理矢理熱を作る。
気休めだ。
走路員のボランティアが言っていた、「次のエイドまであと少し」だけが希望だ。
エイドについたら、ダメ元で「ゴミ袋を一枚わけてください」と頼もう。
もちろん、カッパの代わりにするためだ。
すでに身の危険を感じる。
一刻も早くこの寒さに対処しないと・・・
ここで死んだら・・・
まぁ僕はいい。
好き事をやりながら、意地を貫いて力尽きた、なんてのも悪い死に方じゃない。
でもYOMEと子供たちがかわいそうだよな・・・
エイドはまだ見えてこない。
体はさらに冷えたようだ。
リタイア・・・それも勇気だろうか。
生きていればこそ、リベンジもある・・・
ああ・・・っていうかエイド・・・コンビニ・・・カッパ・・・ホットコーヒー・・・
そんなとき、ガード下に白いテントが見えた。
ついにエイドについたのだ。
あの・・とボランティアに話しかけようとしたとき、彼の方が先に口を開いた。
「カッパ、使いますか?」
彼の手には新品のカッパ。
なんと!まさに地獄に仏!!
言葉だけでは感謝を伝えきれない。
大げさではなく、命の恩人だと思った。
早速カッパに袖を通す。
温かい。
でも寒い。
一度芯まで冷えてしまうと、簡単に回復する物ではない。
でも希望が見えた。
生きて完走するぞ!!
そして混濁していた意識がはっきりしたのか、大きな見落としに気づいた。
ホットドリンクは自販機で買える。
なんてことだ。
だれか教えてくれよ。
自販機ならいくつもあったのに。
エイドには温かい物を置いていなかったが、20mほど先に自販機が見えた。
震える手で小銭を取り出し、一番甘そうなホットコーヒーのボタンを押す。
缶コーヒーは、人肌くらいの温度だった。
いや、実際は熱かったと思うのだが、僕の手が熱いと感じてくれないのだ。
それでもそれを飲むと、人心地ついた。
続けて次はホットココア。
ああ。うまい。幸せだ。
もう一本・・・と思って、やめた。
手持ちのお金はもう残り少ない。
まだ先は長いのだ。
それに、これ以上飲むと、胃に変調をきたすかもしれない。
大丈夫、自販機ならこの先もあるさ。
90km
ようやく・・・ようやくここまで。
ペースはキロ約11分。
歩くのとほとんど変わらないペース。
ついにここまで来たぞ、あと一踏ん張り!!
って思えない。
もう止めたい。帰りたい。何もかもどうでもいい。
魔界だ。ここは魔界。
日常に帰りたい。
熱い風呂に入って、布団にくるまって寝たい。
あと10km??
順調にいってもあと2時間くらいかかる。
ああ俺、こんなとこでなにしてんだ?
周囲にランナーは少なく、みんなごくゆっくり走ったり、歩いたりを繰り返している。
それでもゆっくりと僕を追い越し、だんだん小さくなっていく。
僕がリタイアしないのは根性じゃない。
リタイアを宣言する勇気が無いだけ。
それにリタイアを宣言したって、すぐに保護してもらえるわけじゃない。
第一、ケータイの電池は切れてるし、エイドまでたどり着いたって、着替えも防寒着もストーブもないんだ。
もしも90km過ぎで僕のすぐ横に救急車が来て、「乗っていいですよ」と言われたら、多分僕はそこでリタイアしていたと思う。
徐々にあたりが薄暗くなってきた。
再びヘッドライトのスイッチを入れてみたが、あまり明るくない。
明け方の数時間しか使わないはずだったので、電池を交換してこなかったせいだろう。
足下の水たまりがよく見えなくなってきた。
見えてもよける元気があったかどうかわからないが。
雨は最後の最後、ゴールの瞬間まで降り続けた。
ついに朝の闘牛場跡に戻ってきた。
闘牛場跡の階段を上ると、石造りの通路の向こうが眩しく光っていた。
足下には赤絨毯が敷かれている。
走っているのか歩いているのかわからないまま、フィニッシュラインを越えた。
どうやら終わったらしい。
感動のゴール・・・ではない。
もう走らなくていい、という安堵感。
そして、リタイアするタイミングを逸して、いたずらに命を危険にさらした自分への嘲笑。
後味の悪さは、前回のワイドー100km以上・・・
レースレポートは以上!
楽しく愉快なレポートを期待していた方がいたら、ごめんなさい。
こんな目にあっても、やっぱり僕はウルトラが好きみたいです。
いや?失敗するとこんな目に遭うような競技だからこそ、成功したときの達成感もまた比類無いといえるのかな???
僕はこれからもきっと走り続けるし、懲りもせずにタイム狙っていくし、いずれは表彰台とか思ってたりもする。
他人にどう思われるかじゃなくて、何をどうすれば自分が目一杯楽しめるかどうかの問題。
遊びなんだから。
それから、今回は単身の遠征、ゲストハウスでレース前後の宿泊をしたのだけれど、楽しい出会いがいくつもあり、人情に触れることのできた旅でもあった。
地元や、日帰り遠征では起こらない出会い。
またやりたいな~、遠征♪
今回のレース、「出会い編」についてはまた!
書くかどうかわかりませんがww